独立・開業、誠におめでとうございます。 希望に満ち溢れる一方で、「具体的に何から手をつければいいのだろう?」「最初の一歩をどこに踏み出せばいいのか分からない…」と迷ってはいませんか?
多くの方が「まずはサービスを作っていく」と考えてしまいますが、実はその前に、立ち止まって考えるべき重要なことがあります。
この記事では、それらの問いを出発点にした、事業を成功に導く考え方を3つのステップで解説します。会計ソフトの導入や開業届の提出といった「手続き」の話ではなく、あなたのビジネスをこの先、継続的に成長させていくための、最も重要な「事業の考え方」です。
ステップ1:【最重要】「サービス」の前に「お客様」を決める
あなたが個人事業主として最初に取り組むべき、最も重要なことは「誰の、どんな問題を解決するのか?」、つまりターゲットとなるお客様を明確にすることです。
なぜ「サービス」より「ターゲット」が先なのか?
「自分の得意なスキルで、サービス内容を先に決めるべきでは?」と思われるかもしれません。しかし、ビジネスの本質は「誰かの悩みを解決し、対価をいただくこと」にあります。
これは、「鍵」と「鍵穴」の関係で考えると、非常に分かりやすいです。
- お客様の悩み・課題 = 鍵穴
- あなたのサービス = 鍵
あなたが、どんなに立派で高性能な「鍵」を先に作っても、その鍵が差し込める「鍵穴」が存在しなければ、扉は一つも開かず、誰の役にも立つことができません。
先に「この鍵穴を開けたい」というターゲット(鍵穴)を定めるからこそ、そこにピッタリと合う、本当に価値のある「鍵(サービス)」を作ることができるのです。
ターゲットを先に決める3つの具体的なメリット
- サービスのミスマッチがなくなる
自分の「作りたいもの」を優先すると、誰にも求められていないサービスになってしまう危険があります。先に「〇〇で困っている人」をターゲットにすれば、あなたのサービスが必ず誰かの需要に応えている状態からスタートできます。 - 発信するメッセージが深く突き刺さる
誰に届けたいかが明確になることで、あなたの発信する言葉の解像度が劇的に上がります。不特定多数に向けた「健康の悩みを解決します」という言葉より、「育児で忙しい40代の女性へ。寝る前10分でできる、心と体を整えるオンラインストレッチを提供します」という言葉のほうが、「これは私のためのサービスだ」と深く響くはずです。 - 価格競争から抜け出せる
特定の悩みを解決する専門家になることで、あなたは「その他大勢」から抜け出せます。「Webサイトを作れる人」はたくさんいますが、「個人で活動するセラピスト専門の、予約機能付きサイトを作れる人」はぐっと少なくなります。ターゲットを決めるプロセスそのものは、サービスで差別化を図る一番の近道なのです。
ステップ2:3つの視点から「あなただけの提供価値」を見つけ出す
事業の核となるお客様が決まったら、次はその方へ「どんな価値を提供するのか」を具体的に形にしていきます。これは、ステップ1で定めたお客様の悩みを解決するための「答え」を設計する作業です。
ここでは、①あなた自身(Company)、②お客様(Customer)、③競合(Competitor)という3つの視点から、あなただけの「強み」となる提供価値を見つけ出していきます。
あなた自身(Company)-「得意」と「情熱」を掘り下げる
全ての土台となるのは、あなた自身の特性です。まずは、あなたが提供できる価値の「源泉」をリストアップしてみましょう。
参考になる問い
- これまでの職務経歴や実績の中で、「これなら他の人よりもうまくできる」と自信を持って言えるスキルは何ですか?
- あなたが当たり前にやっていることで、周りの人から「すごいね」「どうやるの?」とよく聞かれることは何ですか?
- 時間を忘れるほど、没頭できることは何ですか?
お客様(Customer)-「真のニーズ」を理解する
次に、ステップ1で定めたお客様が、本当に求めているものは何かを深く考えます。お客様自身も言葉にできていない、潜在的なニーズを想像することが重要です。
参考になる問い
- お客様は、どんな言葉で自分の悩みを検索するでしょうか?
- お客様が、最終的にお金や時間を払ってでも手に入れたい「理想の結果」や「理想の状態」とは、具体的に何ですか?
- お客様がサービスを選ぶ際に、最も重視する「決め手」は何だと思いますか?(価格、品質、スピード、安心感、実績など)
競合(Competitor)-「空白のポジション」を見つける
最後に、あなたと同じようなサービスを提供している他の人(競合)を調査し、あなたが進むべき道を見定めます。競合と戦うのではなく、「違う土俵」を探すという視点です。
参考になる問い
- あなたの競合は、主に「どんなお客様」をターゲットにしているように見えますか?
- 競合のサービス内容や価格設定を見て、「自分だったら、もっとこうするのに」と感じる点はありますか?(例:もっと丁寧に対応する、もっとわかりやすいプランを作る)
- 競合のサービスを利用したお客様が、感じていそうな「少し物足りない点」は何だと思いますか?
3つの視点が重なる場所に、あなたの「価値」がある
3つの視点から得た答えを、並べて眺めてみてください。 あなたのサービスの提供価値は、この3つの円が重なる、中心部分に存在します。
「あなただけの提供価値」とは 【①あなたの強み】が【②お客様の真のニーズ】に応えており、なおかつ【③競合が提供していない】領域のこと。 この重なり合う部分こそが、あなたが集中すべき、独自の価値の源泉です。これを一言で表現できるようになった時、あなたの事業の基盤ができたといっても過言ではないでしょう。
ステップ3:お客様との「出会うための道筋」を作る
ステップ1(誰に)とステップ2(何を)という事業の設計図が完成したら、いよいよお客様に「見つけてもらう」ための具体的な道筋を作っていきます。これが、一般的に「集客」と呼ばれる部分です。
2つの問いから「最適なチャネル」を導き出す
ここでの考え方はシンプルです。以下の2つの問いの答えを掛け合わせることで、あなたに最適な道筋(集客チャネル)が、論理的に見えてきます。
- 問い1:あなたのお客様は、普段どこで情報を探していますか?(お客様の居場所)
- 問い2:あなたの価値は、どの方法で最も魅力的に伝わりますか?(価値の伝え方)
まず、お客様の「情報収集の仕方」を考える
あなたのお客様は、何かを知りたい時、どんな行動を取るでしょうか?大きく分けて3つのタイプが考えられます。
- 1. 能動的に「検索する」タイプ
明確な悩みや目的を持って、GoogleやYahoo!などで能動的に情報を探している人たちです。「今すぐ客」に最も近い、意欲の高い層と言えます。
有効なチャネル: ブログ(SEO記事)、専門性の高いYouTube、リスティング広告など。 - 2. 受動的に「出会う」タイプ
SNSなどを眺めている時に、偶然あなたの情報に「出会う」人たちです。潜在的なニーズはありますが、今すぐ客ではありません。
有効なチャネル: Instagram、X、Pinterest、Facebookなど。 - 3. 信頼する人から「聞く」タイプ
自分で探すよりも、友人や専門家など、信頼している人からの情報を重視する人たちです。
有効なチャネル: 紹介、類似サービスの事業者とのコラボレーションなど。
次に、あなたの「価値が最も伝わる方法」を考える
あなたのサービスが持つ独自の価値は、伝え方によって魅力が何倍にもなります。あなたの「表現の強み」を活かせる方法を選びましょう。
- 論理や専門性が価値の核なら →「文章」
深い考察や体系的な知識を伝えるのに最適です。時間をかけて読んでもらうことで、専門家としての信頼を築きます。
相性の良いチャネル: ブログ、note、メールマガジン - 人柄や熱量が価値の核なら →「対話・音声」
あなたの声や話し方、表情は、文章だけでは伝わらない安心感や熱量を届けます。お客様との距離を縮めるのに効果的です。
相性の良いチャネル: セミナー、お茶会、YouTube、音声配信 - 世界観や美意識が価値の核なら →「ビジュアル」
言葉で説明するよりも、一枚の写真や美しいデザインの方が、直感的に魅力を伝えることができます。「素敵」「欲しい」という感情を喚起します。
相性の良いチャネル: Instagram、Pinterest、デザイン性の高いWebサイト
【実践】2つの答えを掛け合わせ、最初の「一点」を決める
それでは、2つの答えを組み合わせてみましょう。
例1: お客様は「検索する」タイプで、あなたの価値は「文章」で最も伝わる → まず集中すべきは【ブログ】です。 お客様の検索するであろうキーワードで、悩みを解決する質の高い記事を書きましょう。
例2: お客様はSNSで「出会う」タイプで、あなたの価値は「ビジュアル」で最も伝わる → まず集中すべきは【Instagram】です。 あなたの世界観が伝わる、魅力的な写真や動画を発信しましょう。
ここで最も重要なのは、あれもこれもと手を出さないこと。まずは、この掛け合わせで導き出された、最も可能性の高いチャネルでメインにコンテンツを築いていき、他のチャネルでコンテンツをリサイクルしていきましょう。
まとめ
個人事業主としての一歩を踏み出した今、やるべきことは無数にあるように感じるかもしれません。しかし、最も大切なのは、流行りの集客に飛びつくことではなく、ご自身のビジネスの根幹を築くことです。
- 【お客様】を決める
- 【提供価値】を磨く
- 【出会う道筋】を作る
この順番を間違えないこと。それが、あなたのビジネスを成功へと導く、最も確実で、真っ当な羅針盤となります。
個人事業主としての道のりは、長く、そしてやりがいに満ちたものです。最初のこの一歩が、未来のあなたを支える最も確かな土台となります。焦らず、一歩ずつ、あなただけの事業を築き上げていってください。